この本では、豊富な地域の調査を背景に、「日本の都市空間が形成されてきた「意図」とでも言うべきもの」を都市空間の構想力として紹介しています。
「はじめに」の一節で記述されている西村先生の一文は、デザインの出発点として構想力を読み解く意義、ひいては自分が大学院生として取り組んでいる活動の意味を再度問い直させてくれました。
こうしたものの見方を多くの方々と共有することによって地域を見る目にゆるやかな包絡線が引かれ、地域を束ねる一つの共通認識が生まれてくることにつながるのではないかと思うからである。
(中略)
ただ、少なくとも、原点から正しく出発したならば、どちらの向きにどの角度で創造的なジャンプをすべきなのか、ある一定の感覚が共有されると思う。
よって、都市空間の構想力を知ることは都市デザインの出発点なのである。
私もこの本を早速通読しましたが、とにかく「卒業設計に取り組む前に読みたかった」というのが最初の感想です。(だから学部生の皆さん、ぜひ!)
たとえば、自分が卒業設計に取り組んでいるとき、「辻空間の設えが大事だね」というアドバイスをいただいたのですが、具体的にそれがどういうことか分かりませんでした。本書では「辻」について2ページを割いて説明がされ、佐原の忠敬橋や浅草の不整形叉路、旭川のロータリーと具体的な事例も豊富です。この本があれば、もっとデザインを深めることができたかもしれません。
また、本書は本郷界隈についての記述も、大変充実しています。
以前オギュスタン・ベルク先生を講演にお呼びした際のリサーチが下敷きになっているという背景もあったりするのですが、本郷で学ぶわれわれ学生にとってこれは非常に嬉しいことです。本で読んだ「構想力」を実際に現地で確認する、こうした作業の繰り返しでさらに理解を深めることができるからです。
たとえば、本書では藍染通りが紹介されているのですが、こうした面白い「構想力」が身近に潜んでいることもしらず、今まではいつも本郷通りのみを往復していたのです。
10年を超えるプロジェクトの積み重ねが本書になっているとのことですが、5章には自分が演習やプロジェクトで関わらせていただいている渋谷に関する記述もあり、微力ですが積み重ねの一部になれていることを嬉しく思います。と同時に、本書を読みがら多くの労力が投入されてきた数々のプロジェクトが透けて見え、改めて都市デザイン研究室の先輩方の積み重ねに感服する次第です。