ロンドンの濁りに雑じる。

対象敷地:イーストロンドン・ニューアムバロー

総人口:310,500人、白人以外の人種:64.8%、国内2番目に貧しい区

[2012年ロンドンオリンピックレガシーを最大限に利用したコミュニティ主導の地域戦略提案]

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去年の9月から4ヶ月と少し、イギリス、ロンドンにある University College London の Development Planning Unit (DPU) にて、Urban Development Planning を学んでいる。

DPUという学科は Planning School  から独立した形で存在している。元々AAスクール(Architectural Association School of Architecture)にあった部署をジョン・ターナー(John F.C. Turner) がペルーでのハウジング研究を終え、途上国で現地民とともに仕事をする若手育成を目指して設立した。アフリカ、中南米、東南アジアと、Global Southと呼ばれる地域での開発研究を主眼に置いている点、そして現場からの視点を重視する点において特徴的である。

 

冒頭が一学期の主要プロジェクトの要項である。ロンドンオリンピックの開催地は歴史を遡っても常に貧しいとされてきた地域の’再生’と’地域格差の解消’を提唱したものだった。オリンピックが終わった3年後の今もレガシーとそれに呼び込まれた新規開発が次々と続く裏で、住民に約束されたアフォーダブル住宅の数は満たされず、恐れていたとおりに土地価格の上昇がジェントリフィケーションを生んでいる。すでに何年も計画主体との交渉を続けている住民と住民組織、そして彼らとともに活動するいくつかの有識者ネットワークの手助けをしながら、現存の法律のうちコミュニティがまだ利用していない権利や財源の取得方法を調査・整理し、提案させていただいた。

 

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▲オリンピック公園内の新規集合住宅

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▲立ち退きが決定した周辺の元公営住宅

現場からみると単純な絵図ではなかった。駅前の一等地に立つ、元公営住宅の立ち退き問題。新しく建つ住宅への居住権と移転補償を手にし多くの住民がすでに移転しているなか、数少ない住民たちは一歩も譲らず住み続けている。しかし彼らを代表する住民組織は二つに分かれ激しく対立し、その争いに挟まれた。区長は住民のあらゆる抗議にいっさい耳を貸さず、逆に親身に手助けをする開発会社職員の存在もあった。まずその地で行われている政治をマッピングせよと言われたとおり、関わるアクターの利害意識、キャパシティ、力関係を把握することの重要性に気づかされた。

民主主義の原動力は対立・闘争にあると、教授の言葉を思い出す。それほど住民の抵抗は激しく、時には暴力的であり、住民組織というよりアクティビストのように見えた。とてつもない資本主義の濁流に抗い、その地に住み、その地を自らの意思で変えていく権利を主張する彼らの姿に考えさせられた。

 福永