カトマンズプロジェクトでは、11月21日から12月8日まで第2回現地調査を行いました。
その様子をM1の川田がお伝えします。
2015年4月25日、首都カトマンズから北西77km付近を震源としたマグニチュード7.8の地震が発生し、多数の家屋倒壊や8000人を超える死者など、甚大な被害が生じました。
この地震を受け、東京文化財研究所が文化庁から受託した、ネパールにおける文化財の被災調査に、都市計画班として都市デザイン研究室の森助教を中心とするメンバーが参加しました。
9月に行った第1回現地調査では、調査対象地を決定するため、建築や構造の専門家と一緒に世界遺産やその暫定リストに載っている寺院や集落をめぐり、ネパールの建築局やユネスコの事務所など現地の機関と打ち合わせを行いました。
検討の結果、民家の残存度やその他文化的な要素などを考慮し、カトマンズ盆地にある「コカナ(Khokana)」という農村集落に決定しました。
コカナは、ネワール族の農民カーストが9割以上を占める集落で、周囲の棚田で主食となる米を栽培しています。民家は、古くから残るネワール建築の伝統的な家屋が一部残りつつも、近年RCによる4,5階建の家屋が増えていたり、カトマンズからの開発圧力でスプロールが進んでいたりします。
第2回調査では、集落の成り立ちから空間構造の解明、民家の被災度調査、ファサード調査を行うとともに、構造の専門家により、民家の強度に関して構造の面からも調査が行われました。現地では、都市デザイン研究室のOBで、現在ネパールの大学で教鞭をとられているシュレスタ先生と、教え子の専門家2人も加わり、住民の方々と直接話したり、家に入れてもらったりしながら調査を進めることができました。また、コカナの若手住民の有志からなる復興委員会のメンバーにも調査にご協力いただきました。
▲民家の地震被害の様子。伝統的な家屋では、隣家と壁を共有しているので、地震の被害が大きくなる。
現在調査内容をまとめている最中で、結果はまだお伝えできませんが、多くの新たな発見や興味深い知見を得ることができました。調査結果は報告書がまとまり次第、またご報告します。
以下、個人的な感想になりますが、今回の調査で感じたことを何点か書きたいと思います。
ひとつの集落をこれほどじっくり見る機会は今までなかったので、今回、自分の足で集落の隅々まで歩き、一軒一軒民家を見る、という作業を通して、都市空間を読む面白さを実感できました。また、日本において、”living heritage”が少なくなる中、住民の生活に根差した合理的な生活空間、伝統的な家屋を見ることができたのは、とても貴重な経験でした。
▲満月の日に行われたお祭りの様子
一方で、様々な難しさもありました。近代化の波の中で、どのように文化的な価値を守っていくのか-そもそも文化的な価値とは何か、という問いに加え、階高が低い、耐震性に不安があるなど、住民の不安・不満が大きい伝統的な家屋を、どのようなインセンティブで残していくのか、まだ答えが出ていない問いです。
また、住民の中には、震災後、国内外の様々な調査が入る中で、調査が支援につながらないことに対する失望もありました。国内の政治的な混乱に加え、震災前から経済的に豊かとはいえない状況で、公的な復興支援は思うように進んでいません。今回の調査をどのように実際の支援につなげられるか、私たちのこれからの課題でもあります。
2週間を超える調査の全てをここでお伝えすることはできませんが、調査結果がまとまり次第、こちらで皆さんにお伝えできればと思います。