アルバイトエピソードトーク〜宮城先生編〜【UDLM6月号企画 完全版】

マガジン編集部修士1年の神谷です。

6月号では「自主的な取り組み」についての特集を行い、アルバイトについて研究室メンバーへの調査と合わせて、先生方の学生時代のアルバイトエピソードをお伺いしました。

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改めてご回答いただいた皆様ありがとうございました!

 

その中で宮城先生にいただいたご回答を誌面では扱いきれなかったので、こちらで紹介しようと思います。

 

■ キャリアパス( career path )につながるアルバイト  by 宮城俊作 教授

 今にして思えば、あれが今日的な意味の学生アルバイトであったどうかは定かではありません。京都大学大学院で造園学研究室に在籍した3年と6ヶ月の間、恩師である中村一先生(造園家・京都大学名誉教授)が様々なプロジェクトで協働されていた建築家の瀧光夫さん* の設計事務所(大阪府吹田市)でアルバイトをしていました。主な仕事は、公園施設や温室の設計を数多く手がけていた瀧さんの建築設計と中村先生のランドスケープ設計が関係する部分の実施設計図のドラフトと模型製作でした。ですから両者(建築とランドスケープ)の相互関係やせめぎ合いのありようを、ニュートラルな立場で、しかしかなり生々しく直接見ていたことになるでしょう。

 このお二人は、デザインの手法とスタイルにおいても対照的でした。中村先生は、ラフなスケッチと絶妙な言葉でデザインを伝える方で、それを私が図面におきかえていましたが、言葉のイメージ喚起力に気がついたのはこの頃です。一方の瀧さんは、ディテールまで事細かにご自分で描き込む方でしたから、グラフィックコミュニケーションの神髄を見ていたように思います。当時はもちろんすべてが手描き図面の時代なのですが、紙(トレーシングペーパー)に様々な硬さの鉛筆で描く線のひとつひとつの意味を、指先を通じて感覚的に捉えるトレーニングとして貴重な経験でした。後年、CADやCGを使用するようになってからも、現在に至るまで、コンセプチュアルなスケッチは手描きにこだわっているのですが、おそらくはその頃のことが影響しているはずです。

 瀧さんの事務所アルバイトは、週に3日くらい、実施設計の締め切りが近づくと、ほぼ毎日だったと記憶しています。つまり、あまり大学には行っていなかったということですね。2年目からは、3名ほどいた所員とほぼ同じ扱いをしていただき、施工段階にある現場の監理業務にも参加させていただきました。自分が描いた実施設計図に基づいて実際に施工すすんでいく部分を目の当たりにするのは、なんとも不思議な感覚であったことを覚えています。

 もうひとつ、このアルバイトが私自身のデザイナーとしてのキャリアにとって決定的であったことは、米国への留学に躊躇していた私の背中を瀧さんに強く押していただいたことです。ご自身もコロンビア大学大学院に留学・修了した経験から、その意義と可能性を懇々と説いていただきました。

瀧光夫さんのもとでのアルバイトは、その後の私のキャリアパスに、たしかにつながっていたと感じます。

 

*瀧光夫(1936-2016) 広島県尾道市出身の建築家。京都大学建築学科卒業、コロンビア大学大学院建築学専攻修了。代表作に愛知県緑化センター(BCS賞)、水戸市植物公園(日本造園学会賞)、シャープ労働組合研修センター(日本建築学会賞)など。