webマガジン特集企画・神戸を訪ねて①/西村先生インタビュー・前編

こんにちは、都市デザイン研究室マガジン編集長の中戸です。今回はWEBマガジン企画として、去年6月(!)に神戸芸工大に伺い、西村幸夫・元都市デザイン研究室教授に神戸での暮らしなどを伺ったインタビューの様子、そしてマガジン編集部による神戸のまちあるきの様子をまとめました。(諸事情により記事にするのがとても遅くなってしまいました、本当に申し訳ありません!)

記事は全部で5本、インタビュー前編・後編と、西村先生の著書である県都物語・神戸編のレビュー、まちあるき三宮編・新長田編、からなるWEBマガジン特集号となります。

今までにあまりない試みのため読みにくかったりするかもしれませんが、ご一読していただければ幸いです。

以下、まずは西村先生へのインタビュー前編となります。(去年6月時点での内容となっています)

 

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―東大から神戸芸工大に移って、生活はどのように変わりましたか?

 今の僕の役職は「芸術工学研究機構長」というものなのだけれど、社会連携だとか外部資金をとってくるということについてのコーディネート、あるいは実際に学内で研究資金を配ったり、というのが今のところの主な仕事。だから今、学生に講義をするというオブリゲーションはなくて、先生方といろいろな会議をしたり、学長と打ち合わせをしたりするのが主な業務だね。1週間に1日、今日みたいに水曜日に全ての会議が集中しているから、この日にくれば大丈夫。必要なときは前後に伸ばしたりもするけれど。だから、5月の連休明けまでは随分時間ができて、いろいろなことができると思っていた。今までは忙しくて、いろいろなところから講演に来てくれと言われても日程が合わなくて半分くらいは断っていたし、各種委員会の仕事もあまりできなかった。こちらに来て、時間ができたからそういうものを気軽に引き受けていたら、今度はだんだん忙しくなって来ちゃって。出張で別のところに行って東京に戻る、というようなことを週に二回くらいやっていて、出張ばかりしているなという感じになってしまいました。こんなはずじゃなかったんだけどなあ。あんまり神戸にもいなくて。

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▲神戸芸術工科大学。神戸市営地下鉄「学園都市」駅から5分ほど歩くと、この青い看板が見えてくる

―では、拠点は東京なんですか?

 そう、家は東京で前と全然変わってない。だから、こちらにくるときは未だにホテル住まいですよ。本当はこちらに家を借りようかと思ったのだけれど、どれくらい忙しくなるかの見当がつかなくて。今はみなさんが遠慮して僕に講義を振らないでいていくれているのかもしれないけれど、しばらくすると講義をいろいろやらなくてはいけなくなるかもしれない。大学院だけで、学部の講義まではしなくていいことにはなっているのだけどね。もし、この先もう少し忙しくなってくると、ホテル住まいじゃなくてちゃんと拠点を構えたほうがいいかもしれない。ただ、それが1年後なのかもっと先なのかはわからない。だから、今は東大にいた頃よりもずっと移動している感じ。

 また、今までいろいろな自治体の委員をたくさんやっていて、退官するにあたって区切りをつけてやめようと考えていたのだけれど、なかなか辞めさせてもらえないんだよね(笑)。それはちょっと想定外だった。だから関東の仕事もいくつか残っています。例えば、千代田区の景観審議会も委員長を20年以上やっている。審議会が立ち上がったのが平成元年だから、そこから数えるともう30年は千代田区の景観行政に携わっていることになる。これからは、やるなら現役で東京で先生をやっている方のほうがいいし、神戸の人間がやってもと思って辞めるって言ったのだけれど、後任の問題もあってなかなか辞められずに続けている状態だね。

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▲西村先生の新しい教授室。窓の外には丘が見える

 

―以前にも増して、各地を飛び回る生活ですね。

 いろいろなところに講演に行くのだけれど、そこで基調講演をやらなくてはいけないことが多いのね。準備をしている時間がないから本を持って移動しながらパワーポイントを作らなくてはいけない。週に何回も講演をするような週もあります。例えば今週は22日に富士山についての講演があって、23日は舞鶴にいて軍港の話をして、そして24日には神楽坂に戻ってそこでも講演。だから直前でないと準備ができない。3つ先の講演の準備なんかできないじゃない。気持ちがそっちにいっていないし、あしたは別のことをやらなければならないし…。基本的には自転車操業だね(笑)。

 使いまわせる資料があればいいのだけれど、やはりその地域にあったことを喋りたいと思っているから大変。若い頃は自分の経験や持っているものを話していたけれど、段々と年を重ねていくと経験値も上がっていって、そうすると自分のことじゃなく、なるべくそのまちのことを言いたくなってくる。それに、若い頃は与えられた時間も短いけれど、それもだんだんと時間が伸びてくる。そこはやっぱりちゃんと準備しないといけない。

 メインの話には今までの経験からいくつかのストックがあったりもするけれど、それを準備して映像や画像を探して…とやっていると、やっぱり直前になってしまうよね。3週間くらい先の講演のレジュメを出してくれ、なんて言われたときは、ちょっと困っちゃう(笑)。頭が目の前のことに向いているから、申し訳ないけど無理ですと言っている。一つ一つ片付けていかなくてはいけない。大変だけれど、その時の出会いや発見もあるから、楽しいんだけれどね。

 人間の頭には容量があるみたいで、そのときはすごく集中しているから講演したり訪れたまちのことを覚えているのだけれど、それが終わると、誰にあったのかとか、そのとき何を喋ったのかとか、いくつかの記憶が次の記憶に上塗りされていっている気がします。だから、一年前どこで講演をしたかと聞かれても、そんなところ行ったかな、という感じですぐには思い出せないこともあったりする。きっと頭の何処かには残っているのだけれど、反射的に思い出すことができないくらいにいろいろところで話してきた。そんな生活が続いています。

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―今はとても忙しいと思いますが、もし暇ができたらやりたいことはあるのでしょうか?

 一つは、前にもマガジンに書いたと思うのだけれど、新しい研究を始めようと思っている。県都物語を書いたけれど、これはある意味でフィジカルな空間の物語。ここで書ききれなかったという思いがあるのが、例えばお祭りとかだね。空間をどのように使っているのか、ということ。日常的な使い方はその空間を見ればわかるけれど、お祭りのような、特別な時の特別な空間の使われ方というのはその時にいかない限りわからないじゃないですか。本を読んだり写真を見たとしても、全体像は実感が湧かないんだよね。お祭りは大体年に1回だから、その日が空いていないと体験することができない。準備から見ようと思うと、本当に丸一日・丸二日はかかってしまう。神社で神様をお神輿に入れる祭礼などは早朝にやったりもするけれど、それまで追うとすると三日はかかる計算になる。今まではとてもじゃないけれどできなかったので、それをやって見たいなあと思っています。手帳に日本のまちの主要なお祭りがいつなのか書いてるんだよ。これは行けるといいなあ、という風に思って。こうやって一覧してみると、メインのお祭りは7月、8月に集中するんだよ。ほら、8月上旬なんかはすごいたくさんあるでしょう。1年だと重複しちゃって回りきれないから、全部見て回るだけで2、3年はかかってしまう。でもちゃんと見て回って、例えば「祭礼空間と都市」とか、そういうことをやりたいなあ、と。本気でやったら10年くらいかかってしまうのかなあ。

 それで、いろいろと調べては見ました。民俗学とかね。でも、民俗学の人は祭りの中のいろいろな意味とか、祭りの細部の方の研究に行ってしまうみたい。空間の問題として捉えているのものは本当に少ないということがわかったので、違うことが発見できるんじゃないかな。新しい分野が開けるかもしれない。

 今まで僕はいろいろな本を出してきたけれど、それまでに類書がないようなものが多いんです。県都物語だって似たような本はないし。新しいことをゼロから作るというのが楽しくて、そういうことを祭礼空間などでもやりたいけれど、やっぱり時間がとてもかかってしまうよね(笑)。