富山プロジェクトはコンパクトシティ政策の先進的な国内事例として有名な富山県富山市の政策評価を行うプロジェクトです。これまでの政策理念や計画の変遷をまとめ体系化すること、量的な指標としての統計調査や質的な指標としてのパブリックライフ調査を行い政策の効果を確かめること、それらをもとにコンパクトシティ政策の今後の展望をみることを目標としており、論文化や書籍化に向けて取り組んでいます。
今回の現地調査の目的は
・富山市の「都心部」とされる範囲の踏査、中心市街地の概況把握
・富山市側と今後の論文・書籍化に向けてのスケジュールの確認、市長への趣旨説明
・串と団子の「団子」部分の現状把握
・富山大学都市デザイン学部との打ち合わせ
の4点でした。
まずは前日入りしたメンバーで朝の通勤状況の調査。コンパクトシティ政策を受けて人々の通勤時の交通行動は変わりつつあるのかを観察します。
私は富山駅から南口駅前広場にかけてを担当しましたが、とやま鉄道から徒歩あるいはバスへの乗り換えが多く見られました。通勤時の市電の利用はあまり多くはありませんでしたが、現在進められている富山駅南北接続が完成すると事態は変わるかもしれません。
その後午前は中心市街地をひたすら歩きました。再開発が進められている市電沿いに対して外側は戸建て住宅街となっており、非常に駐車場が目立ちます。駐車場は景観上ネガティブに捉えられがちですが、戸建て住宅に平面駐車場で天空率が高く開放的な印象もあり、意外に豊かな都市空間なのかもしれません。つくづく都市計画は理論だけでは語れないことを思い知らされます。
総曲輪のアーケードではまちづくり会社のまちづくり富山が運営するMAG.netを発見。『まちと若者をつなげる』というコンセプトのもと自由に利用できるコミュニティスペースで、学生と多くのイベントを開催しているとのことでした。公共交通以外に中距離移動手段を持たないのは学生であり、中心市街地におけるこのような学生向けコミュニティスペースの分布を見ることはコンパクトシティを評価するポイントとなるかもしれません。
午後は富山市役所にてプロジェクトの打ち合わせの後市長と面会。コンパクトシティへの思いや見え始めた変化の兆しについて伺うことができました。自動車から公共交通への転換を目指しているのではなくあくまで公共交通というのを選択肢のひとつに加えさせることが目的ということで、短期的な効果よりも長期的な視点でみたときの持続性を選んでいるというお話が特に印象的で、支持される理由がわかったような気がしました。一方で中心市街地への公共交通利用を促す短期的な施策も豊富で、柔軟なアイデアとそれをすぐに実行へと移す力が自治体経営にも重要であることを実感しました。
生活の変化の兆しとしてはコンサートホールで幕間にお酒が売れるようになってきたことがあるとのことで、中島先生からはパブリックライフを調べていく上でそのような日常のエピソードを切り取るような視点が欲しいというコメントがありました。
その後は車で地域生活拠点を回り、「串と団子」の「団子」の実態を見ました。富山市の政策は中心市街地のハード整備が優先されていることもあり、各地域生活拠点はまだ政策の効果を感じるような光景は見られませんでした。南北接続が終わると中心市街地の整備は一段落し、これらの拠点に注力するのはその後ということなので、今後注目していきたいと思います。
最後は富山大学にて都市デザイン学部本田先生、高栁先生、阿久井先生と打ち合わせで、こちらのプロジェクトの概要、協働の可能性などについてお話ししたのち富山大の現況について伺いました。今年新設された学部ということで事務仕事が多く学生も少ないなか、多くの地元のプロジェクトに取り組まれているそうで、授業もあるなか一人5,6プロジェクトに携わる学生もいるとのこと。大学側の富山にかける思いや、都市デザイン学部新設に対する地元の期待感を感じます。ひとまず当面は共同の勉強会を開くという形で双方の富山市についての研究成果を共有しつつプロジェクトを進める方向で調整することとなりました。
今回は私にとって初めての富山でした。中心市街地の交通インフラの充実と沿線再開発とのシナジーを感じる一方で、根強い自動車利用や未だ手がつけられていない地域生活拠点など課題も見受けられ、今後パブリックライフ調査として人々の実生活の変化を見ていく中で非常に示唆があった現地訪問だったと思います。