都市設計特論第一、第3回「自転車都市、オランダ・フローニンゲン」

みなさん、こんにちは。M1の富田です。

都市設計特論第一の第3回となる今回は、都市デザイン研究室のOBで跡見学園女子大学の坪原先生をお招きして、「自転車都市フローニンゲンにみる都市再生と合意形成」というテーマで講義して頂きました。

フローニンゲンは人口20万人を擁するオランダの北の中心都市ですが、特筆すべきはなんといっても、オランダ国内で最も自転車分担率が高く、中心市街地への来街手段の70%が自転車と、とにかく自転車利用が盛んな街なのです。

groningen1.jpg▲右手の中央駅周辺には約4000台分の駐輪場が確保されている。

(http://www.slowmobility.net/columns/world/2013-07-14_13-55/より転載)

そんなフローニンゲンがどのようにして今の自転車都市となったのか。そこから見えてきたものは、行政と市民との間の合意形成を考える上での教訓でした。

講義では、自動車利用の抑制、自転車の走行環境・駐輪環境を整えることによって都市空間の再生を試みた例が3つ紹介されました。

 

①都心の歩行空間の再生

フローニンゲンでは1970年代から自転車走行空間の整備がすすめられ、中心市街地には8000台以上の自転車が駐輪され、歩行空間が駐輪場と化してしまう状況であった。そこで駐輪ラックを1500台分増設したり、中心市街地の駐輪場の無料化など原則として取り締まり強化はしない方針がとられました。結果的にラック外の放置自転車は減少した一方で駐輪総数は増加するなど中心市街地の活性化に資する成果をあげました。なかでもユニークな対策として、店前に大量に駐輪された自転車は、店前に赤い絨毯を敷くだけで、その数が激減したそうです。とはいえ、まだまだ駐輪施設の供給は間に合っておらず、駐輪対策の模索中です。その一方で、熊本市では放置自転車ゼロを目指して、厳格な駐輪取り締まりを行ったことで、放置自転車の数は減って歩行空間は改善されたものの、駐輪総数も減少したので中心市街地の活性化という点においてはマイナスだったのではないかと考えられています。

 

②都心の出会い機能の再生

1960年代からフローニンゲンの中心市街地およびその周辺に対して幹線道路や地下駐車場が計画されるなど、B&W(複数政党から成る執行機関)を中心に自動車中心のまちづくりを推進しようとしていました。しかし1970年の地方選を機に、現在利用可能な都心の街路空間を効率的に使って都心への望ましいアクセスを提供するために、都市空間の出会い機能の強化を中心に掲げる都市計画目標が立案され、これまでとは打って変わって公共交通と自転車を優先した政策へと転換しました。具体的には、交通循環計画(VCP)で、中心市街地の歩行者専用空間の大幅な拡大、バスターミナルの移設、市域全体を覆うバスと自転車道のネットワーク計画を含む素案が策定されました。

2015-11-27 17.43.46.png▲フローニンゲンの中心市街地とVCP

(坪原紳二, オランダ・フローニンゲンの交通循環計画の導入プロセスにおけるリベラル・デモクラシー, 日本都市計画学会, 都市計画論文集, Vol.47, No.2, 2012年, 10月より転載)

しかしこれには地元の事業者団体を中心に、市の広域的機能が失われ、中心市街地が衰える、と猛反対を食らい、歩行者専用空間の大幅な縮小をする代わりに中心市街地を一方通行規制で4分割にすることで計画が修正されました。結果としては反対派の予想は外れ、都心を訪問する人は22%増加、訪問頻度や滞在時間も増加し、出会い機能は再生されたといえます。

③住宅地の史跡公園の再生

1970年代に入り、フローニンゲン中心市街地の北部に位置する史跡公園の周辺住宅地の通過交通問題が深刻化し、そのうえ北環状線の完成後は公園内の自動車交通を排除するという政策が提案され、住宅地への通過交通がさらに増加すると危惧した周辺住民や個々の商店街から全市的な事業者団体までが反対しました。妥協案として、実験的に公園の車道を閉鎖して通過交通の問題が発生して解決しようがない場合は元の状態に戻すことで合意され結果的には、公園内の通過交通の55%が環状線に吸収され、自転車の交通量は30%以上増加、公園のレクリエーション利用も増加の一途を辿ったことで市民の支持を得て、公園内の車道の閉鎖が確定しました。

2801511278.jpeg▲公園内は自転車と歩行者のための道が整備されており、自動車の進入はできない。

(http://toerisme.groningen.nl/de/about-groningen/karte-von-groningen/firmadetails/2741/noorderplantsoenより転載)

②、③いずれの例についても、住民参加の結果ではなく、政党が先導してトップダウン的に推進したことからも、自転車にやさしいまちづくりの実現には、政治の主導性が求められるのでしょうか。また反対の声が多数あがったとしても社会実験をして効果がないならやめるといった柔軟な考えと粘り強い取り組みが大事なのではないでしょうか。昨今、地方分権が叫ばれる日本において、こと公共交通利用促進の政策についてはフローニンゲンの事例から学ぶことも多いのではないかと思いました。

貴重なお話を聞かせてくださった坪原先生、どうもありがとうございました。

次回もどうぞお楽しみに。