緊急トーク・イン「どうするどうなる 丸の内のスカイライン」

パネリストの意見

*パネリストの名前をクリックすると意見の詳細が読めます


久保金司(美しい景観をつくる都民会議千代田区代表):

街づくりは、行政の活動や指導がどうしても必要になるから、市民は行政を信頼していかなくてはならない。行政は、誤解を招く行動をせず、信頼に応えてくれるような行為行動をしてほしい。

今日のような市民の意見を聞く場ができたということは大変良い。行政がこういう市民の意見をどんどんくみ取って、希望に対する調整をすることが必要ではないか。

今日の集まりの主旨は、反対運動ではなく、広く市民の声を集めていくことである。行政は今日の集まりを市民の声を建設的に集めるための機会だと捉えて欲しい。

街づくりの手続きは民主的なルールに従ってほしい。市民と行政の話し合いのテーブルに乗せる形で意見を集めてほしい。

この地区は美観地区として明治時代から美しさを保とうと法律で決めてきた地域だ。我々が慣れ親しんできたこの美しさを変えていこうと言うのだから十分な検討が必要だ。

地権者は、法人ではなく人間という立場に立って計画を図ってほしい。

三菱地所は、今は中心になって高い建物を建てようとしているけれども、東京海上を建てるときの美観論争では超高層化に反対をしていた。こういった経緯歴史もきちんとふまえてほしい。

行政には元気を出してもらいたい。袋叩きにあっているという意識じゃなくて、反対に、こういう機会に元気を出して欲しい

小林さえ (東京の顔『丸の内』を守る会代表):

丸の内というのは、東京、日本の原風景だったんだとつくづく思う。

京都から遷都して以来、丸の内はたくさんの国民の血のにじむような努力によって日本の表玄関として作られてきた。その意味で丸の内の美観は、東京の人だけではなくて国民みんなの財産だ。

立派なドームを持った一国の中央駅が城と対峙して、30mの高さのビルが美しく揃っている風景はおそらく東京だけだ。その意味でも、これは世界的にも値打ちのある街のでき方だと思う。

高さ150mの物が東京駅前に建つと考えると、すごく美しさのバランスを失するように感じる。本当に良くないと思う。

容積率とか企業側の営業の声とかそういう次元ではなく、丸の内は国民の場所なんだと一人一人が自分の問題として切実に考えてみる必要があると思う。

こういう会を開いたおかげで、いろんな人にいろんなことを考えてもらえて、その意見を伺うことができたことは非常に大切なことだ。

地球上の資源というのは今あるだけでこれから作り出すわけにはいかない。エネルギーの面でも資源の面でもそういうことをもう少し考え、時間をかけてやってもらいたい。

進士五十八(東京農業大学農学部教授):

この十数年来、地権者が中心に丁寧に勉強会をやってきたことそのものは、とても意味がある。しかし、ここは首都であり地権者だけの地区ではない。地権者はそういう自覚を持つべきだ。

そもそも、あるビジョンを実現する手段が技術でありお金だと思うが、今は手段である技術の方が先に行って、利益もあるしお金もあるから作ろうという感じがちょっとする。そこが気になる。

東京をどういう都市にしたいのか、特に歴史と自然のある都心をどうするのか考えるべきだ。地権者が専門家としてスタディをしたり、少し幅を広げてこういう議論をするのも良い。

マンハッタンじゃなく、どれくらい「東京であること」を目指しているのか。一国の首都をつくるのによその国の都市をモデルにしたというのは、少々不謹慎だ。

過去の専門家が、長年努力して美観をつくってきたところにアーキテクトという職能がある。今ある美観をなおざりにすることは、その職能種を踏みにじっていることにはならないか。

皇居周辺は東京の顔として多くの人によって作られてきた。そういう歴史と自然のあるオープンスペースと建物群とのバランスを今回の計画の中ではどのようにとっていくつもりなのか。

建物の高さについて、「概ね」とか、最初は30だったのに次は100にしてもう少しいくと200まで良いというのは詐欺的な行為である。

このプロジェクトは、皇居とその周辺や霞ヶ関の再整備までもターゲットにして、国民みんなが時間をかけて深く考えていっても良いのではないか。

元来日本の建築は低層水平型に展開してきた。それがここに来て急に、アメリカの様な垂直型に展開した。しかし、そろそろそういう都市づくりというものを考え直すべきではないか。

今回の懇談会案は「拠点」を設けて、段階的なスカイラインの構成を考えている点は良いが、オープンスペースへの配慮が不十分だ。街区単位で内に閉じた空地を考えるのは良くない。

例えば、お濠端全部にオープンスペースをとれば東京の顔になるのではないか。

この地区は都市に必要な歴史と文化を重合して成熟し、今の風景を形成してきた。基本的にそれはあまり変えない方が良い。時間とか歴史に対する思いやりが今回の計画には見られない。

丸の内界隈にまあまあ安定した景観がようやくできてきたのに、またそれを壊して、郊外の都市でやるような開発をする事が本当によいのか。

昔の企業は公共に対してどう貢献するかということきちんとやってきた。企業はこのプロジェクトの社会的文化的な意義をもっと考えるべきだ。

今までは、集中して大規模化すればメリットがある時代だったが、環境の時代は逆だ。200mのビルをつくったら今よりも大変な量のエネルギーを消費する。そういうことに対する配慮がない。

懇談会の案では、東京駅だけ守って復元しても意味がない。そういう意味でも大きな時代の流れというものを読んで、もう一回ボタンをかけ直した方がよいと思う。

多児貞子 (赤レンガの東京駅を愛する市民の会):

市民の声に耳を傾けることはとても大切である。現在の社会経済情勢の中では、今回のPR運動がどういう方向に転ぶか判らないので、これからもずっと続けていくべきだ。

建物保存に関しては耐震性の話が問題になるが、残そうという意志があれば、色々補強の方法を工夫したりできるんじゃないのか。

かつての丸ビルでは非常にくつろぐことができた。上からの圧迫感がないことが、気持ちの上にゆとりを持たせてくれるのだろうか。

ビルを建てるときには、屋上にも気を配って、上から見られることにも配慮してもらいたい。

大江新(法政大学工学部教授):

景観を考えるときには、何が何でも超高層がダメだとせずに、ある程度具体的に様々な角度から検討していかないと、結局強い言い方にならず説得力がなくなってしまうのではないか。

実際のアイレベルから見てどう見えるかという検討が必要だ。その場合でも、遠景、中景、近景、それぞれで建物の見え方は変わるということはきちんと考えるべきだ。

東京駅前の広がりの周辺をどういう高さのものが囲むのかということも、この地区全体の中の特徴的な要素だという気がする。そこについても色々な形で議論が続いていけば良いと思う。

地区内には4つの拠点があって、それを全部高さ200m位まで許そうと言っているが、4つある拠点も全て一律にするなんて考えは良くない。

新しい姿のあり方についてなにかコンセンサスを得ることを目指してやっていければいいと思う。

二瓶正史(アーバンセクション主宰):

都市と建築というのは色々な生活と非常に綿密な関わり合いを持ちながら歴史的に形成されてきたものだ。今回発表された計画はその結びつきが非常におかしいものになっている気がした。

今あるこの丸の内の街区を前提条件として、このような建物を建てたとしたら、震災問題、交通問題など非常におかしい事態が沢山発生するだろう。

丸の内が、新宿副都心みたいに質じゃなくて量で勝負しようと思ったら、もうおしまいである。

皇居とその周辺の広い見晴らしの関係において、この地区のことを考えなくてはいけない。

建物は社会的な責任を持っているから、自分が環境に対して義務することも考えていかなければ、とてもじゃないけど街づくりはできない。

スカイラインの問題だけではなく、この街をどうしたいかというイメージがすごく大切である。そういうことも、ここで働く人たちも交えて、こういう場で論じていけたらよい。

山本坦(美しい景観をつくる都民会議千代田区代表):

容積率1300%、高さ150m、200mの建物が建ち並ぶ街にはやっぱりギョッとする。

実感として、都市は、政府が経済的観点からつくるものであって、市民のベースはシャットアウトされている感じがする。

ここは日本の顔なのに、都市に個性が見られない。「クローン・シティ」という感じか。「sence of place」、場所に関するコモンセンスがなくなるのはどうか。

計画通りのものが立ち並んだとすると、二酸化炭素の問題はどうなるのか。「sence of century」世紀のセンスという観点から考えるべきことがあるのではないか。

東京の景観を、地権者と行政と一緒になって、一人一人がじっくりと考え、色々と意見を出し合っていくべきだ。

建物というのは次の世代に伝えていくものだ。次の世代にこういうものを残したら、はたしてどう考えるだろう。

とにかく我々が自分の意見をはっきりと言うことが一番大切だと思う。

伊東孝(日本大学理工学部教授):

今回こういう形で、非常に広い地域で一人一人がこの問題について考えようとなっていることは良い。この地区は日本の顔なんだから、みんなで考えていこうという姿勢が非常に大切だ。

超高層の建物は皇居周辺に壁をつくることになる。そうなると、空間的な奥行きがなくなってしまい良くない。皇居のように自然環境豊かなところは、非常に大切にしていくべきだ。

今回の会の盛り上がりは、何らかの形でみんながこの地区に関わりたく思っているからで、そういった動機は非常に大切にしたいと思う。これを機会にもっと大きな運動にしていった方が良い。

歴史的に見ればこれまで声を上げるべき時に我々はそうしてこなかった。今回はそういう愚を繰り返すべきではない。

建物を注視するのは大切だけど、もうすこし他のところにも目配りして全体を考えていきたい。交通計画、交通問題等も踏まえて、この景観を最終的には見直さないといけない。

コーディネーター(西村幸夫)による補足総括

このまちは、市区改正と震災復興の2回の都市計画が我々未だに影響力を持ってきている、都市計画の記念碑的な所である。その意味で非常に貴重だと思う。

情報公開を徹底し情報を共有した上で、みんなでいろいろと議論ができるような土台をきちんとつくってやっていくことはかなり重要だ。

計画者の意見やここで実際に働いている人たちの意見ときちんと接点をもうける必要があるのではないか。

景観は主観的だという意見もあるが、議論を深めていけば、何らかの方向がここで見つかっていくのではないか。


戻る