地方都市における条例指定による総括的土地利用規制の動きに関する一考察
ー静岡県掛川市生涯学習まちづくり土地条例を事例としてー
A Study on Comprehensive Land Use Regulation by Establishment of Ordinannce in Local Cities
46133 宮木一寛

Some local cities in Japan established their own ordinances to regulate the land use. This study aims to explain the reasons of establishment of the ordinances, their impact on city planning and then to identify the possibility of the use of such ordinances as an important tool in city planning.
Such ordinances have been found to be comprehensive and fit to regulate the land use in local context in the lack of law. There are two aspects in ordinance; one is regulation, the other is public participation for consensus. The former is not strong, but the latter is relatively effective. Local cities can make gook use of ordinances as their own method of land use regulation through public participation.

0.研究の目的・背景・構成
 本研究は、地方都市における条例による土地利用規制の動きについて、静岡県掛川市「生涯学習まちづくり土地条例」(以下、土地条例という)を事例として、検証しその在り方について考察することを目的とする。
 背景としては、地方自治体が未だ主体的なまちづくりを行えない中、一部の自治体で条例制定による土地利用規制を行う動きがあり、これを都市計画において位置づけうる必要があるとの認識があつ。
 論文の構成は、図0に示すとおりである。

1.土地利用規制に関する条例の位置づけ
1-1 条例の位置づけ
 条例は憲法94状において地方自治体が自治権に基づき定めることが出来る自主法として保障している。この根底にある地方自治体の自治権とは、地方自治に密接に関わっている。地方自治は憲法により直接保証されているものである。よって、その手段である条例の制定権が安易に法律によって妨げられることは問題であるが、未だに法律優位の雰囲気は残っている。

1-2 都市計画関連の条例の諸分類
 都市計画関連の条例について分類例を概観すると、条例の目的による分類、規制の手段による分類等様々であるが、@対象とする条例が必ずしも明確でない(まちづくり条例、都市づくり条例など)A類型化が適切でなく各類型が独立していない、などが問題である。

1-3 条例制定の系譜にみる条例の特徴
 条例制定を時系列的に見ると、およそ@法令による都市計画(〜1960年代中期)、A自己防衛としての条例制定(60年代後期〜70年代中期)、B低成長期におけるアメニティの追求(70年代後期〜80年代中期)Cバブル経済期とその後における自己防衛及び高度なまちづくりを目指した条例制定(80年代後期〜)に分けられる。条例の制定を時系列的に見た時の特徴としては、即応性と先駆性が挙げられる。条例の即応性については、実際のまちづくりに直接携わっている地方自治体が、経済・社会の動きに敏感に反応し、条例による施策を打ち出していると言える。
 条例の先駆性については、現行の法規制では対応できない、あるいはしてない部分について、条例が法律にさきがけて規制している点が指摘できる。

1-4 構成要素による分析
 条例の構成要素は、図1-1に示す通りである。大筋としては、理念・目的のもと、計画・基準等がある。実現手段として規制の対象が発生した場合に、届出・勧告等による規制の仕組みが働く。場合によっては規制の仕組みを担保する措置として氏名の公表や、罰金など、或いは既存の法律との連動などがある。
 また、住民参加が計画基準等の作成、説明会の開催などを通して図られる場合もある。その他としては、表彰、審議会の設置、基金などがある。これらを踏まえて、1-3で取り上げたいくつかの条例について構成要素をみると表1-2のようになる。これらから、条例の内容が複合化してきたこと、目的がまちづくりが多いこと、届出を義務づけている場合が多いこと、さらに住民参加充実が図られていることが挙げられる。

1-5 若干の法理論上の考察
 法制上の論点としては主に、
(1)条例で財産権に規制を加えることができるのか(憲法29条2項)、(2)地方自治法2条3項18号において、不動産に規制が法律の定めるところと規定しているため、条例による規制ができないのではないかが問題とされているが、概ね条例制定に有利になってきている。
 例えば上乗せ規制(法律と同一目的で、同一事項に対するよりきびしい規制)に関しては、従来違法であると解されてきたが、現在では、法律が、最小限のナショナル・ミニマムとしての規制を定めているにすぎないと解される場合は、その地域の特性に応じ、条例により、上乗せ規制できるとするのが一般的な傾向となった。

2.条例制定を巡る法規制の諸問題
 土地利用規制を目的とした条例の背景となっている関連法令の問題点は表2に示すとおりである。
 これらの法令から言える既存の法律に欠如している点は、合意形成システム、中長期的視点に立った計画、柔軟な法運用等である。

3.掛川市の概況
 掛川市は、静岡市と浜松市の間に位置し、人口76,068人、面積185.79Iの地方中小都市である。恵まれた交通条件下にあるが中心市街地の衰退、農林業の衰退等、の問題点を抱えている。(図3-1)また、農地の転用が多く優良農地の確保、都市、農村を含めた土地利用計画の策定が重要である。(図3-2)
 次に市の施策として、用途地域内の面整備が進んでいる。(図3-4)また、掛川市は未線引きであるが、その理由として線引きすることで、開発を抑制することへの懸念、都市と農村混在化における有効な手段とならないためなどとしている。(表3-5)さらに、生涯学習運動が行われており、既存のコミュニティーを活かし、市民参加の地盤となっている。(表3-6)
 
4.土地条例
4-1 土地条例制定の背景
 条例制定の背景としては(図4-1)、当初、諸要因が絡んで土地問題が顕在化し(図4-2)条例制定の引き金となったが、規制的側面は薄れ、計画づくりに重点が置かれるようになり、これにより強権的な規制より、合意形成に重点が置かれた。

4-2 土地条例の仕組み
 条例の施策の流れは図4-3に示す通りである。促進区域の要件は、開発のみならず、森林の保全や景観などの保全、水質の浄化等も含まれている。

4-3 土地条例による区域指定状況
 協定区域の指定は図4-4に示すように、区域数、面積共に順調に増加している。また、協定区域の分布の推移について見ると(図4-5)、用途地域外に殆どが散在している。これは、少なくとも表面的には、土地条例が既存の法律では比較的規制の甘い白地地域に対応していると評価できる。
 一方促進区域は用途地域周辺に分布しているものが多い。これは、用途地域周辺で合意が得られない地域が促進区域のままでいる地区が多いことを意味していると考えられる。(図4-6)

4-4 土地条例の運用実態
 土地条例の実情を把握し、問題点を明らかにするために、1.住民参加の度合い、2.条例による土地利用規制の効果、3.まちづくり計画の内容(総合性・担保性)を軸として考察を行う。
(1)住民参加の度合い
 行政の主導により頻繁に説明会、勉強会が開催されており、それに対する参加の度合いは地区戸数により開きがある。(図4-7、表4-8)具体的なまちづくりの推進には、視察、勉強会、活動等を通して住民が参加する形で行われている。
(2)条例による土地利用規制の効果(図4-9)
 届出は、概ね少数に留まっている。これは、条例が懐刀として働いているためか、景気の低迷による開発ポテンシャルの低下による部分との見分けが困難である。また、農振青地の解除を事業開始まで遅らせ、未然の開発を防ぐといった連携も若干みられるが(5地区)、基本的には行政としては、土地の動きに眼を通すことが目的としている。
(3)まちづくり計画の内容(総合性・担保性)
 まず、概ね既存の事業に土地条例が適用されたケースが多い。これは、当初土地条例が事業執行のための手段として活用されていたことを反映している。
 次に個性的なまちづくりを行う工夫があることを指摘できる。具体的には、開発を主とするものから保全を主とするものまで様々である。さらに、内容的にも事業を行っているところも、自然環境の保全、水質浄化等、充実させている。(表4-11、表4-12)
 最後に担保性については地域住民の自発的なまちづくりを中心に行う場合は財源の問題を中心に担保性が低い。これと比較して事業の場合は財源、法律等による担保性が強いことは確かであるが、景気の低迷による、事業進行の停滞という事態が起こっている。(表4-13)

4-5 土地条例の問題点
 土地条例の課題としては、
(1)行政の力量、裁量に委ねられている点、(2)開発と保全のバランス、(3)協定の実効力、(4)まちの将来像との整合性、(5)協定締結後の事業進行、などが挙げられる。

5.終章
5-1 都市計画の中での位置づけ
 これまでの考察を踏まえて、最近の土地利用規制の条例制定の動きについて検討する。
 まず、条例を制定することに関しては、対外的には自治体の主体性の表明と評価できる。通常であれば既存の法律により対処することで間に合っていたはずが、自主的に条例制定を行うという背景には、問題意識を持ち、自らの手で解決していこうという意思表明である。対内的には、横断的な調整手段としての可能性を持っている。掛川市では土地条例を所管している課が関係課の調整を行い運営している点は縦割りの弊害に対処していると評価できる。
 条例の内容に関しては、まず対象範囲については都市計画区域外についても適用している点で、都市計画法などの規定していない部分について適用する(横だし規定)ことが可能になっている。
 条例による規制には一定の限界があると考える。掛川市を初め、大部分、届出義務と勧告によりチェックを行うが、それ自体が強制力をもつものではない。これは法律との関係、国、都道府県との関係などがその要因として考えられる。現実的には当面、都市計画法、各種事業法、農振法等の現行法をいかにコーディネートしていくかが重要であるが、その際、地域の独自色を出すことが難しい。
 これに対し、条例による合意形成手段の提示では可能性がある。掛川のように徹底した住民参加による合意形成が計画の担保になる点は注目すべきである。確かに掛川市では生涯学習運動が条例による住民参加の土壌になっている面もあるが、それ以上に、その前提としての行政職員の努力、および既存の自治会等、既存コミュニティの存在によるところが大きい。住民参加、合意形成は前述の通り、既存の法律では欠落している大きな要素の一つであるが、これを補うものとして条例を位置付けることができる。特に、地方都市では旧来の自治会等を活かすことができる点で有利と言える。

5-2 今後の展望(図5)
 これまでは、最近の土地利用規制の条例の制定は先進的な自治体に限られていたが、地方自治体の自主性を尊重する観点から、条例の制定は他の自治体でも制定すべきであると考える。その際、土地利用に関する庁内横断的な条例を目指すべきである。1つの考え方としては、基本的な枠組みは条例により定め、そのもとで法律の運用が図れるようにすることが考えられる。
 住民参加による合意形成は条例によりその手続きを明確にし、それぞれの地域にあった実効性の高い方法を提示し、行政窓口を単一にすることが双方向の協議が行える点で重要である。
 実際の規制に関しては法律によるところが多いができるだけ市町村の裁量でできる範囲を増やし、柔軟で多様なまちづくりが可能な環境を整えるべきである。各法の技術的な改善(集団規定、開発許可、地区計画)のみならず権限委譲が必要である。
 また、条例による計画を位置付けるマスタープランの作成も、条例の合意形成手法に準じた方法で行い、区域計画と広域計画の調整を行う必要がある。

[主要参考文献]
(1章)
・(1992)「ジュリスト条例百選」有斐閣
(2章)
・アーバンフリンジ研究会(1994)「都市近郊土地利用事典」建築知識
・静岡県都市住宅部都市計画課(1994)「市町村マスタープラン策定の手引き」
(3章)
・日本都市計画家協会(1995)「自立する地方都市の将来像」シンポジウム資料集
(4章)
・掛川市長(榛村純一氏)による土地条例に関する各種レジュメ
・河合代悟「地方自治」第528号
(5章)
・野口和雄(1993)「解説と活用法 改正都市計画法」自治体研究社


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