国際環境法の発展と世界遺産条約に関する諸問題の検討
The study of the development of international laws and the problemsof World Heritage Convention

36118 美濃和秀幸 

In1972 November 16th, Convention Concerning World Cultural and National Heritage which is very important

international law about conservation of environment was formulated. Cultural Heritage incluses many historical cities and this convention defines rules of the ways of conservatiion. It newly changes the way how to conserve cities.

In japan, kyoto and Shirakawa village were inscribed as World Heritage. Nevertheless, as World Heritage List is enlarged, it is getting appearent that this convention has some problems. Especially the problem of authenticity of cultural heritage and the problems of Cultural Landscape are remarkable. For these reasons, Author seizes the position of World Heritage Convention in international laws and show the summary of this convention.

はじめに

・研究の背景と目的

 1972年11月16日のユネスコの総会で採択された「世界の文化遺産・自然遺産の保護に関する条約」=世界遺産条約は文化遺産と環境保全に関して非常に重要な国際条約せある。文化遺産になかには、歴史的な都市が数多く含まれ、その保全の方法についての規定が定められている。このことは、都市の保全の有り様に対して新しい変化をもたらすものといえよう。日本においては京都や白川郷なそが文化遺産として登録されている。そこで、世界遺産条約を国際環境法の発展の動向のなかにとらえ、条約の内容と問題点を検討することによって、条約の全体像を示す。

第泄煤@国際環境法

第部 世界遺産条約

2-1 条約成立の経緯

 ユネスコは、文化財の保存をその憲章上の任務の一つとしており、数多くの遺跡の保護事業を行ってきた。しかしながら、従来、遺跡等の保護のために国際協力が、特定諸国間の負担の下に、いわば場当たり的に行われたこともあり、その保護の在り方に自ずと限界があった。このため、1966年の第14回ユネスコ総会は、文化財、記念物、遺跡等の保存及び修復のため、国際的な原則及び基準を採択するための、適切な措置をとることを決議し、その後、常設の組織を有する国際的な援助と協力の体制の確立をその目的とする条約が作成されることとなった。そして、1972年11月にユネスコ総会において採択された。

2-2 条約の概要

2-2-1 文化遺産の定義

 この条約では「文化遺産」を以下のように、「記念工作物」、「建造物群」、「遺跡」の三つに定義している。

 ・記念工作物:建造物、記念的意義を有する彫刻及び絵画、考古学的物件又は構造物、銘文、洞窟住居並びにこれらの物件の集合体で、歴史上、美術上又は科学上顕著な普遍的価値を有するもの。

 ・建造物群:独立した又は連続した建造物群で、その建築性、均質性又は風景内における位置から、歴史上、美術上又は科学上顕著な普遍的価値を有するもの。

 ・遺跡:人工の所産又は人工と自然の結合の所産および考古学的遺跡を含む区域で、歴史上、鑑賞上、民族学上又は人類学上顕著な普遍的価値を有するもの。

2-2-2 世界遺産委員会

 ・この委員会はユネスコに設立される政府間委員会で、ユネスコ総会の際に開催される条約締結会議が選出する15国(現在は21国)の政府によって構成される。

 ・委員国の任期は6年である。

 ・委員会は年1回開かれ、会議には構成国の政府代表のほか、文化財保存修復研究国際センター(ICCROM)、国際記念物遺跡評議会(ICOMOS)、国際自然連合(IUCN)の専門家が顧問の資格で出席できる。

2-2-3 世界遺産リスト

 ・このリストは世界遺産委員会によって作成される。

 ・締約国はこのリストに登録するにふさわしい自国内での物件の指名目録をつくり、所定の資料をそえて委員会へ提出する。

 ・一国から指名(申請)する遺産の数に制限はない。

 ・申請された遺産を文化遺産についてはICOMOSが、自然遺産についてはIUCNの専門会が審査して受諾(世界遺産として指定)したものをリストへのせる。

2-2-4 世界遺産センター

 世界遺産委員会の業務のために事務局があり、それはユネスコ事務局があり、それはユネスコ事務局により提供される。条約採択以来20年間、事務局の仕事はユネスコ自然科学セクターと文化セクターの職員によって行われてきたが、1992年の両セクターの職員をひとつにまとめた世界遺産センターがパリのユネスコ本部事務局内に設置され、事務局長直属の組織になった。

2-2-5 危険リスト

 委員会は、世界遺産リストにのせられている物件のうち、保存のために大規模な作業が必要とされ、かつ、この条約に基づいて援助が要請されている重大かつ特別な危険にさらされているものだけを選んで「危険にさらされている世界遺産リスト」にのせる。

 危険がさればリストから除かれる。

 この危険リストは、それをのせることによって、当時国を非難しようとするものばかりではなく、政府と国民の注意を喚起して、危険をとり除く努力をうながすことを目的としている。したがって、危険リストは国際的倫理的圧力をかける手段になり、実際にリストにのせられ、政府が保護を強化してリストからはずされたケースが多い。

2-2-6 世界遺産基金

 ユネスコの財政規則に基づく信託基金として設立された。

 「世界遺産基金」は締約国のユネスコ分担金の1%の強制拠出のほか、任意拠出、寄付、贈与からなる。この基金は、世界遺産リストにのせられている物件の保護、保存、活用、機能回復、に関する研究、専門家の派遣、要員の研修、機材の供与などの国際協力および援助に用いられる。

2-2-7 世界遺産の指定基準

 世界遺産リストに掲載される遺産は、世界遺産委員会が定めた基準に従って選定されることとされており、1988年に改訂された運用ガイドラインに基づいて作業がすすめられている。

 文化遺産については、以下のいずれかを含むことが求められている。

 @比類のない美術上の業績、創造的天才の傑作を現するもの

 Aある期間を通じ、またある世界文化上の地域において、建築、記念碑的美術、または、都市計画および造園の発展に大きな影響を及ぼしたもの

 B失われた文明の無類或いは少なくとも稀な証拠を残すもの

 C歴史上重要な時代を例証するある様式の建物または建築物集合の優れた見本となるもの

 Dある文化を代表するような伝統的集落であって、回復困難な変化の影響に対して無防備な状態にあるもの

 E顕著な普遍的な意義を有する事件・思想または信仰と直接にまたは明白に関連するもの

 これに加え、そのデザイン、材質、技術、又は環境についてその確実性(オーセンティシティ)に関する考査基準を満足するものであること、法的保護と管理体制が確立されていることも必要とされる。

 また、都市の建造物群については、@もはや居住されていない歴史的市街地、A今も居住されている歴史的市街地、B20世紀の新しい市街地、の三つの主要な種類に分類され、それぞれの指針が委員会によって決定されている。

 @もはや居住されていない歴史的市街地

 完全な単一体として記載されることが重要である。一群の記念工作物や建造物の小集団では、消滅した都市の多面的かつ複雑な機能を示すには不十分だからである。

 A今も居住されている歴史的市街地

 今も人が住んでいる歴史的都市の場合、主として都市的構造からくる脆さ(工業化時代の到来以来多くの場合、その構造はひどく崩壊されてきた)と、その周辺の都市化の猛スピードゆえに多くの問題が生じる。リストへの登録資格を有するためには、その空間的構成、構造、材質、様式、あるいはまた可能であれば、その機能において、その資産の推薦を促したところの文明もしくはその文明の継承を本質的に反映しているものでなければならない。

 B20世紀の新しい市街地

 20世紀の新しい都市の質を評価することは難しい。これらの都市に関する資料の検討は、例外的事情がある場合を除き、延期されるべきである。

2-2-8 小結

 世界遺産条約には、保護する文化遺産を、「顕著な普遍的価値を有するもの」と定義づけ。、その指定基準を示したことに、その最大の特色があると思われる。次節では、それにまつわる問題点を中心にのべる。

2-3 条約の問題点

2-3-1 文化と自然のバランス

 文化遺産と自然遺産の数のバランスがとれていないことが指摘される。しかし指定する遺産は、委員会が勝手に選ぶ権利をもたず、締約国政府の申請に基づく。したがって、委員会の手によって、リストにのせる文化遺産と自然遺産の数のバランスをとることは困難である。

 1994年12月末現在でリストにのせる遺産の合計は440で、そのうち文化が326、自然が97、複合が17となっている。

2-3-2 所在地のバランス

 遺産所在地が世界各国にバランスよく存在していれば、リストの普遍性が強まるが、ユネスコ加盟国の中には条約に加入しない国、加入しても遺産の申請をしない国、または少なく申請する国などがあり、それぞれの国内事情や考え方で一様でない。

 1992年末のユネスコ加盟国171ヶ国のうち、条約加盟国が131であるから、まだ40ヶ国が未加入である。そのほとんどは人口数万のいわゆるミニ・ステートや旧ソ連構成国などソ連の加入により事実上条約に参加してきた国などで、世界の文化と自然の

遺産の主なものがカバーされえる状況になっている。

 したがって、今後の問題は、加入してもまだ申請をしていない国を援助して保護体勢をととのえ、申請できるようにすることである。

2-3-3 指定遺産の増加

 遺産リストは無限に長くなっていくのだろうか。IUCNの試算では、リストにのせる価値のある自然遺産は220件くらいという。文化遺産は数千件になるであろう。

 今のところ、リストの遺産は毎年20件以上(1992年は22件)が増加していく。限界を設けて適正規模のリストにする必要があるだろうか。それとも、今のリストの中から特に価値のあるものをえらんで、特別リストをつくることができるだろうか。日本政府は重要文化財の中から国宝を選んでいるが、そのような世界遺産の格付けが超国際機関ではなユネスコにできるか疑わしい。

2-3-4 遺産の価値の確保

 リストにのったものはすべて世界遺産である。しかし、この条約発効当初は、早く大きいリストをつくって、この条約に対する世界の関心を高める必要があったから、審査が少し甘かったかもしれないとの反省が委員会自体にある。逆に400件を超える大目的、価値、効用、は何かについて常に検討していく必要があろう。

2-3-5 同一文化に属する遺産

 文化遺産をリストにのせるに当たって、同一文化に属するいくつかの遺産がある場合、どれにより多くの価値を認めるかにの問題がある。例えば広く地中海諸国に散在している古代ギリシャの遺跡に関して、本家であるギリシャの遺跡をリストにのせないで、他国のギリシャの遺跡をのせると、リストの権威が弱くなる可能性が生ずる。ギリシャが1981年に加入して、国内にある同様の遺産のリストにのるまでの10余年間にあった問題である。

 同様のことが日本についてもあった。仏教建築について、日本の加入が遅れたために、高い価値をもつ日本の建造物がのこらず、他国のものだけのるのは、仏教文化遺産を世界の立場からみる時、アンバランスの感をまぬがれない。1992年に日本が加入し、翌年には法隆寺がリストにのり、京都、奈良などの建造物もつづいて申請されることがはっきりするまでの問題であった。

2-3-6 国内の遺産のバランス

 遺産の申請は加入国政府が行うことになっているが、政府は国内の少数民族の遺産には高い価値を与えたがらないし、政治的外交的意味をもつものも除外しようとする。またリストにのると保存の責任が重くなるから、保存行政上やりやすいものをまず選ぶことになる。その結果、その国および人類全体の立場からみて、真に価値ある遺産が選ばれないこともありうる。

 したがって、申請の権利を政府以外の、例えばICOMOSの国内組織のようなものに与えるほうがよいかもしれない。しかし、折角リストにのっても、保存管理ができないのでは世界遺産の価値は低下し、リストの権威も下がるし、目的も不明確になる。リストはそれ自体よりも保存活動にその価値が高まるのであるから、政府に与えておいたほうがよい。

2-3-7 文化遺産の種類〜「文化的景観について」〜

 ・世界遺産に文化的景観が導入された具体的経緯

 1984年の第8回世界遺産委員会において、人類の手の入っていない純粋な自然地域はきわめて少なく、人間と土地との共存において顕著な普遍的価値を有する自然地域が多数存在しているので、世界遺産の評価に関与する主たる非政府組織であるIUCNとICOMOSとの綿密な協議の下に、自然遺産と文化遺産の双方に関して優れている景観のための新たな規定・登録基準を設ける必要があると提案された。そして1992年の第16回世界遺産委員会において、文化的景観を文化遺産に含めること、そしてそのための登録基準の改訂案が決められた。

 ・文化的景観の定義

 自然と人間の共同作品で人間と自然環境との相互作用の様々な表現を意味し、物理的な力あるいは自然環境によって生じた機会、または継続する内外の社会的、経済的および文化的な力の影響を受けて時代を超えた人間社会と定住の例証と定義される。

 ・文化的景観の種類と内容

 @デザインされた景観 Designed Landscape

 人間の意思によって設計され、意思的に作り出された景観で、庭園や公園等がこれに該当する。

 A有機的に進化してきた景観 Evoleved Landscape

 ロ進化の過程が過去にある時期に突然あるいは時代を越えて終止している残存景観

 例 カンボジアのアンコール遺跡周辺における森林や水濠などのように、往時の寺院群の立地と水利用との関係を残存する景観

 ワ伝統的な生活様式に密接に結びつき、現代社会の中で活発な社会的役割を保ち、進化の過程が今なお進行中である継続中の景観

 例 フィリピンにおける高地性棚田景観のように、伝統的な農業と密接に結びついて保存され、今日なお耕作が継続されている水田景観

 例 白川郷・五箇所山の合掌集落

 B関連する景観 Associative Landscape

 「文化的複合景観」とも訳され、自然的要素の強力な宗教的、芸術的または文化的な関連性によって定義される景観である。このカテゴリーに属するものは文化遺産としてのみ登録されたものはなく、いずれも自然遺産として登録されていたものが、後に文化的景観として文化的遺産にも登録され、いわゆる複合遺産になったものである。

 例 ニュージーランドのトンガリロ国立公園のように、景観の自然的価値だけでなく、マオリ族の聖地としての文化性が認められたものがある。

 ・文化的景観に関する諸問題

 @坪庭のような小さな景観が、はたして文化的景観の範疇に含まれるのか

 A富士山を文化的景観として世界遺産に指定しようとする際に生ずる問題

  土地所有関係や土地利用のあり方がかなり錯綜していること。

  学術的な側面から世界遺産としての富士山の価値について、いまだ十分な議論が行われていないこと。

 B日本の文化的景観の保全

 広く文化的・人文的な景観の保護という考え方は、世界遺産に文化的景観の概念が導入される以前から、日本の文化保護行政のなかに史跡や名勝、伝統的建造物群として、すでに部分的に存在するものである。

 また、一部の庭園や公園は都市公園としても保存管理が行われており、古都保存法の歴史的保存地区、都市計画法の風致地区、などのなかにも、すぐれて文化的・人文的景観を呈する地域がある。

 能登半島の輪島市白米地区の棚田は市指定の名勝「白米の千枚田」として法的保護がはかられている貴重な例である。しかし、減反による休耕田の増加に伴って景観の保存対策が重要な課題となってきている。

 このように、伝統的な農法・魚法が社会・経済状況の変化に伴って消滅の危機にさらされると、その反映としての景観、あるいは景観を呈する地域もまた変化を余儀なくされる。よって、これらの景観を保全するためには、景観を構成している物理的な諸要素の基礎となる産業の育成・保全が必須である。

 ただし、「有機的に継続する景観」と同種の景観の場合には、地域住民の生活スタイルそのものが景観の重要な構成要素となっているわけで、その保全に際しては住民の意思が十分に尊重される必要がある。伝統的産業は旧来の労働形態を基盤としていることが多く、往々にして過酷な労働条件を伴うものであるから、景観保全と引き換えに、住民に強度の制約をおしつけてはならない。

2-3-8 近・現代遺産

 比較的新しい時代の建造物を遺として保存しようという動きは最近始まったばかりで、保存物件選択の基準はまだはっきりしていない。新しいものはその価値の評価がむずかしいからである。

 年代については、一般に文化財として政府が指定するものは、50年以上の歴史を持つもの(または第二次世界大戦以前のもの)とされることが多い。しかし、各時代を代表するものを残べきだとも考えられる。特に現代の商業用ビルなどはやがてとりこわされるのを待っていては手遅れになりかねない。

2-3-9 負の遺産

 アフリカの奴隷がアメリカへ送られるとき収容されたセネガルのゴレ島の施設、アウシュビッツの強制収容所は、負の遺産であるが、世界遺産リストに登録されている。世界遺産リストへの登録の推薦が決定された原爆ドームも負の遺産である。

 それらは、過去の事実の記憶の場所、現在の問題の確認の場所、よりよい未来のための準備の場所としてとらえることができるが、はたして、どのような価値観にもとづいて登録されるのだろうか。当時国の国民が歴史をどう解釈し、未来のためにどう使うか、人類がそれを受け入れるかが問題となる。

2-3-10 オーセンティシティ

 オーセンティシティ(Authenticity)とは、真性さ、真実性、確実性といった意味で使われる。遺産リストには、意匠、材料、技術、環境の4つのオーセンティシティのテストに合格したものが推薦できる。これは、西洋の石造モニュメントを対象に考えられている。

 ところで、日本では建造物を解体して補修し再び組み立てることによって保存修理することが伝統的に行われてきた。

 例えば日本の伊勢神宮は式年造替というしきたりにしたがって、建て替えられる。神宮には二つの敷地が隣り合って並んでいる。一方の敷地に社殿が建ち20年たつと解体され、もう一方の敷地に新しく建て替えられる。そして、空いた敷地には全く新しい社殿が建てられる。40年たった社殿は伊勢神宮の外に出される。

 このような日本の建造物を文化財とする考え方は、西洋の文化財に対する考え方とは相容れない。そして、このような日本の建造物は、西洋の石造モニュメントむけのオーセンティシティのテストでは合格にならない。

 この問題を解決するには、オーセンティシティの判定のありかたは文化圏ごとに異なるものであるとし、文化的文脈のなかでオーセンティシティの判定が行われるとの考え方に立つことが必要である。

2-4 小結

 従来ユネスコは、諸国民の文化遺産を人類全体の共通の遺産として、人類は協力して保存すべきであると強調してきた。しかし従来の方法では、文化遺産の数は極めて多いのに、加盟国がえらんでユネスコへ援助を申請する一つか二つに限らざるをえない。保存すべき遺産の価値認定がその国の基準により、その国民のために行われているからである。

 それにたいして、この条約は「顕著な普遍的価値のあるもの」という概念をつくり、それに基づいて「世界遺産」としての認定のために、文化遺産、自然遺産のそれぞれについての詳細な基準を設定した。はじめて人類のための価値認定基準がつくられたことになる。こうしてユネスコは、従来主張してきた「人類共通の文化遺産」の概念に、より具体的性格とイメージを与えることができるようになったのである。すなわちユネスコは加盟国のそのときどきの要請に基づく個別の文化遺産保護への援助という受動的協力方式から、遺産をリストにのせる時には自らが設定した基準を積極的に適応する方式へ、またリストにのせられたものの全体の保存管理に積極的に関与し、締約国政府の行動を監視していく方式へと踏み出すことが可能になったわけである。

 だが、文化遺産の指定基準が西洋の文化財の概念をもとにつくられているため、指定基準に合致しない「顕著な普遍的価値を有するもの」をどうするのかという問題が生じた。前述の伊勢神宮の例や文化的景観の問題である。世界遺産の増加とともに世界遺産条約は修正を求められているといえよう。


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