代官山ヒルサイドテラス第七期計画
〜公共空間デザイン手法の提案〜
Hillside Terrace project phase 7
〜A proposal of the design method for public space〜

56116 遠藤 新

Urban space is composed by the unit space which is born of the surface of all urban objects. But most of these units are lie one upon another. So the unit of recognition for urban space is defined as the space which is computed from those units.
This project proposed one method of the design for public space. At first, the public space of Hillside Terrace phase1〜6(at Daikan-yama) was divided into the recognition-units by one computing rule. And then, characteristic of these units and how influence each units were revealed. And at last, based upon above, Hillside Terrace project phase 7 was planed.

1.はじめに

1−1) 研究の目的・背景
 都市に建物を建てるとき、周辺の特に建物群がつくり出している「街並み」は無視することのできない設計条件である。新しい建物を既存の街並みの中にどのように組み込めばよいか。それは、「新しくできる建物がどのような公共空間を街並みの中に提供するか」という問題に帰着する。そこで、本研究では一般的に良質な公共空間を提供していると考えられている「代官山のヒルサイドテラス」を良質な都市空間のモチーフに取り上げて、その空間特性を分析し、続いて、その分析結果に基づいてヒルサイドテラスの近隣敷地で具体的な建物の設計を行った。

1−2)研究の構成
したがって本研究は、一般的に良質な公共空間を提供していると考えられている代官山のヒルサイドテラスを対象に空間分析を行い、その分析結果に基づいてヒルサイドテラスの近隣敷地で具体的な設計をする、「理論・設計」の2部構成で進められた。

1−3)研究の前提
 今回の研究は以下の基本方針を出発地点としている。

方針「既存の良質都市空間がある時、近隣の敷地にそれの空間特性を受けて新しい公共空間を提供する」

本研究には、ここで言う「既存の都市空間」について、一般的に良質の公共空間を提供している代官山の「ヒルサイドテラス」という一連の建物をとりあげた。

1−4)設計のプログラム
以上の内容を端的に伝えるため、「代官山ヒルサイドテラスの第七期計画案を現ヒルサイドテラスの近隣敷地で計画・設計する」というプログラムを設定した。具体的な近隣敷地はヒルサイドテラス周辺で高度利用がなされていない2カ所の駐車場を選択した。

1−5)理論編における空間分析の対象領域について
代官山ヒルサイドテラスにおいて、不特定多数の人が立ち入れる公共性の高い空間を分析対象とした。

2.理論編
2−1)都市空間の認識方法について
 空間は本来ひとつづきのものであるが、我々はそれをある領域に分節して「都市」と呼ばれる空間を創りだし、都市生活を営んでいる。では、その空間の分節は何によってなされているのか。
都市における形あるものは全て幾何学的には「面」に近似・還元することができる。そのことから面によって領域化(このことを、面によって「分節する」と呼ぶ)された空間の集合体が都市空間であると考えることができる。
ここで、面とそれによって分節される空間に対応関係を、つまり、面に空間を対応させるひとつの写像を定義してみる。この空間を、都市の構成単位である「面」との直接の対応関係によって生まれる空間という意味で「単位要素空間」と名付ける。
 また、都市はさまざまな方向を向いた面によって構成されているから、都市において単位要素空間は重なり合うように存在する。しかし、重ね合わせたそれぞれの空間によって都市ができていると考えるより、「重り合い」もひとつの写像と考え、その結果、そこにひとつの分節された空間が生成したと考える方が実際の感覚に近い。
その「重り合い」の写像は、具体的な各単位要素空間の位置関係の演算式で定義する。この写像によって生み出される空間を「要素空間」と名付ける。

2−2)ヒルサイドテラスの公共空間の分析
以上の空間認識に基づいて、ヒルサイドテラスの公共空間を次の手順に従って要素空間に分析してみた。
1. 都市空間を構成する面の抽出
2. 面から単位要素空間を生成
3. 単位要素空間から要素空間を算出
都市を構成する面は、幾何学的な近似をする事によって確定するため、それを抽出するためには、基準となる寸法が決められなくてはならない。今回の研究で寸法を設定した。

標準値は平面方向にそれそれに設定した。そして、それぞれの方向について大小2通りの数値がある。これは、いかの2通りの面抽出を行うためである。

1.(平面寸法a、断面寸法uの寸法体系)
隣り合う建物同士をひとまとまりに捉え個々の建物はできるだけ簡略化した面に還元して抽出する。
2.(平面寸法b、断面寸法vの寸法体系)
建物を個々に捉え、それを構成する面を上より詳細に抽出する。

今後、議論が1と2のどちらかの寸法体系のもとに進められているかを明確にするため、1の寸法体系を「都市レベル」と呼び、2の寸法体系を「建築レベル」と呼ぶことにする。
以上の内容に基づいて都市レベルでヒルサイドテラスの公共空間を構成する面を抽出して、その分布を分析した。
次に、この面から単位要素空間を導き、園単位要素空間から要素空間を算出した。そしてさらに、要素空間のうち歩行者に関連の深い、接地する要素空間だけを取り出してその分布を分析した。
さて、ここで見られる要素空間は、乗り合う全ての単位要素空間を一組と考えて演算にあてはめ、算出されたものである。ここで逆に、算出された個々の要素空間に着目してその要素空間を形成するのに最低限必要なだけ位要素空間を取り上げ、それらだけの演算によって要素空間を算出する式をたててみる。

式を見比べると、その構造の違いによって要素空間は2種類に分類できる。
・一方は単位要素空間の積のみで構成された演算式である。積は空間を限定する操作であるから、積のみで構成された要素空間は他の要素空間に対して自立的である。よって、このような式で求められた要素空間を「主空間」と呼ぶことにする。
・もう一方は、単位要素空間の積に他の要素空間の差がつけ加えられた式である。差は一方の空間から他方の空間を削り取る、つまり一方の空間に他方の空間の痕跡を残す、いわば空間の関係付けの操作であるから、差を含む式によって求められた要素空間は、その引き算した要素空間に対して依存的である。よって、このような式で求められた要素空間を「従空間」と呼ぶことにする。

 以上の考察ら、ヒルサイドテラスの公共空間は「主空間」と「徐空間」に分類できることが明らかになったが、この「主空間」と「従空間」という分類は単位要素空間、要素空間の定義から論理的考察のみによって導かれた概念であるから、正確に都市空間一般に当てはまる分類である.従って、ヒルサイドテラスの空間特性を知るためには、その主空間と従空間に明して何らかの特特徴を見つけなければならない。そこでそれら主空間と従空間について、建築レベルの(局所的な)分析を行うことにする。
 ところで、先の都市レベルの主空間と従空間の分布を見てみると、旧山手通り沿いの空間や、C棟、FG棟の中庭など公共性の特に高い空間は、主空間によって構成されていることが分かる.従って、都市レベルの主空間に着目して、それが建築レベルでどのような要素空間の構成を有しているか調べるため、建築レベルの要素空間を算出してみる.そして、算出された建築レベルの要素空間を主空間と従空間に分類してみる.以上の結果、要素空間の分布図が得られる.
この図から、都市レベルの主空間のほとんどが建築レベルで特赦的な空間構成を、つまり、特徴的拿構成をしていることがあきらかになる。
上図のモデルにおいて、この2つの面積成がつくる要素空間をその定義にさかのぼって考えてみる。この面が建物のフアサードを構成しているとき、どちらも「空間の差」によって建物外側の空間を建物内側の空間に関係づけていることが分かる.つまり、これらの面構成による要素空間は「外部から内帯への引き込み的な空間」を作っているといえる.
 また、この「引き込み空間」は「空間の差」によってつくられる従空間を根拠にしているため、そこには要素空間の連結ができる.その連鎖のあり方を、都市レベルの主空間の位置と重ねて見てみると、一部の都市レベルの主空間については近隣のもの同士が空間の連鎖によって一連なりになっていることがわかる。
 さらに、従空間とそれに関係の深い要素空間の間に空間の相対的な位置閑係を決める方向性を、想定してみると、要素空間の連鎖によって関係づけられていない主空間同士についても、互いに向かい合う(引き合う)方向性が与えられていることがわかる.

<ヒルサイドテラス公共空間特性のまとめ>
 
主空間は、向かい合う面がつくる単位要素空間の軌こよって空間を限定することで成立した自立的性格の強い空間である.都市レベルでそのような自立的性格を与えられた要素空間が、
建築レベルの要素空間の連鎖によって、近隣のもの同士関係づけられたり、互いに向かい合うような相対的位置関係を与えられている。

参照資料

資料1 ― 各種空間の定義
<単位要素空間>
 都市空間の中に実在するものは全て、近似すれば「線」あるいは「面」として認藷することができる.都市空間における「面」(平面または曲面の正の側の面)に着目し、その面の持つ全ての正の法線ベクトルの方向に十分程度掃起(=sweep)することによって形成される包結空間から、その面によって負に分節される空間との共通蔀分を除いた空間を「単位要素空間」と呼ぶ.単位要素空間は、ある一つの面によって正に分節された空間のひとつのモデルである.

<要素空間 ; Elemental Space ; E >
 複数の単位要素空間を選び出しそれらを一定の規則に従って重合させた蘇果寄られる空間を「要素空間」と呼ぷ.重合の規則には4通りのプーリアン演算を用いる.その具体的な適用方法は(資料2)を参無のこと.

<主空間 ; DominantSpace ; D>
 単位要素空間の積のみによってつくられる要素空間を「主空間」と呼ぶ。「空間の積」は例えば、壁面によって空間を囲み取るように、空間を限定する操作であるから、主空間は他の要素空間に対して自立的である.

<従空間 ; Subordinate Space; S>
 単位要素空間の頻と要素空間の差によってつくられる要素空間を「従空間」と呼ぷ.要素空間の「差」を用いなければ空間を決定できない点が重要である。「空間の差」は一方の空間から他方の空間を削り取る、つまり一方の空間に他方の空間の痕跡を残す「空間と空間を関係づける操作」である.従って、従空間は、その引き算した要素空間に対して依存均である。

資料 ― 2 単位要素空間・要素空間の算出に関して
◆面抽出・拡張の方法
◇いくつかの決まり事
・建物については、ヒルサイドテラスの実施設計同面に基づいてCAD入力したデータを分析する.なお、平面/断面両方向において面が50mm払下のズレをもって転置されている場合は、CAD入力時にそのズレを拾わず、面積の小さい方の面を面積の大きい方の面の側に移動させて一枚の面と見なして入力した。
・材木は連続している一まとまりで、一つの面(曲面)と考える.但し、落葉樹は除く.
・材木以外の面については徹分不可態な点を含まない一まとまりの点の集合を一つの面と考えた。
◇抽出・拡張の手順(都市レベルの面を例に)
@平面方向にa以上の距擬を持ち、かつ断面方向にu以上の距離を持つ面を抽出する.aとuの値は、各建物によって決定する.建物間に存在する面については、それらの建物のaとuの中での最小値を用いる.
A抽出された面(nを以下の規則に従って拡張する.
 ア)Pの近傍の面について、平面方向に距離a以内にあり、かつ、断面方向に距離u以内にある面が存在する場合は、その面をPの境界まで、面の境界部分の法線ベクトルの方向に平行移動してPに合成し、Pを拡張する.
 イ)穴あきの部分もしくはそれに類する部分には面を補完する.
Bpの中から各建物の各立面方向において平面方向に最大距離を持つ面を選択する.    
C抽出された面(L)を以下の演則に従って補完する.
 エ)Lの近傍の面について、平面方向に距離a以内にある面を2)のア)と同じ要領で合成し、Lを拡張する.
 オ)穴あきの部分もしくはそれに類する部分には面を補完する.
   (※なお、建築レベルの面は上記在Aに従う.)

◆単位要素空間に対する演算の適用規則
 要素空間を算出するために選択された複数の単位要素空間について、以下の規則に従って演算を適用する.

◇演算適用の基本的な考え方
・和は、空間を篤合的に捉えるための操作である.重なり部分を持たないが隣接する単位要素空間の組み合わせに適用する.
・積は、空間を限定的に捉えるための操作である.例えば、地面のつくる単位要素空間とその地面に建っている壁面のつくる単位要素空間の組み合わせのように、特に結びつきの強い単位要素空間どうしに適用する.
・商は、空間を分割して捉えるための操作である.重なり部分を持った複数の単位要素空間の組み合わせに適用する.
・差は空間を取り除くための操作であり、上述の三通りの演算によって式を表現できないときに用いる.AからBを取り除いたとき、Aには一方的にBの痕跡が残る.その意味で、この演算はある空間に別の空間を牌係付けさせるための換作である.

*演算の目的は、複数の単位要素空間の組み合わせを要素空間として再分割することにある.したがって、それぞれの演算が意味を持てるように、基本的には、和(総合)、積(限定)、商(分割)、差(関係付け) の順序で演算を適用する.

◆要素空間の具体的な算出席庁
・まず最初に、同じ方向に平行な単位要素空間(3)の組み合わせがあれば、和(もしくは差)をあてはめる.但し、強度の異なる面を持つ単位要素空間については和をあてはめない.
・次に、球面など全ての方向に法線ベクトルを持つ単位要素空間があれば、その単位要素空間と向かい合う単位要素空間全てに対して積をあてはめる.この場合、前者(球面など)は、後者と向かい合う法線ベクトルの方向だけに持去させた単位要素空間を領にとって有効な空間とする.また、一部の面は補完して演算を行う叫。
・次に、水平面のつくる単位要素空間と垂直面のつくる単位要素空間の狙があれば、積をあてはめる.
・以上の結果として重合された空間同士が重なり合っている場合は、商をあてはめる.
・同じ階層の裔(同列に並ぷ商)については、大きい方の空間から小さい方の空間の商を求めるように、項の順序をソートする.
・商の結果、決められた精度以下の寸法を持つ要素空間ができた場合、それを取り除く.
・商売結果がそれらの穎と同じ場合、つまり重合された空間同士が完全に一致するように重なり合っている場合は、演算式を単純化するためその部分を積として表現する.
・樹木は不確定要素であるため空間の重合の最終要素として、一番最後に演算に加える.    

◇空間の商に関する高さ補正
・ 高さの違う単位要素空間の組み合わせで商をそのまま行うと、地盤面上では不連続な場所でも、上空でつながっているために同じ要素空間と見なされる空間が算出されてしまうことがある.都市にいる人間は通常何らかの地盤面(床面)上に存在していることを考察すると、地盤面上で不連続な空間は、たとえ上空でつながっていようとも異なる空間として認義する方が現実的である.従って、商の結果このような空間が算出されてしまう頃合は、それを回避するために以下の補正を行う。
@高さの高くない方の空間に、高さの差に対応する部分の空間を補正してから高を実行する.
A計算後、全体の空間に対して補正した空間の商を実行する.

◇単位要素空同の置き換えを行う場合
・和によって合成される単位要素空間群に置き挨えられる場合、面が直接にではなく空間によって補完された場合は、それらの単位要素空間群に対する補完部分の空間の商をあてはめる.
◇演算の厳密性に関して
 数学的に定義されたモデルはその定義が厳密でなければモデルとして十分に機能しない。しかし、数学的モデルによって世の中の現象を説明しようとすると、どうしてもモデルでは説明しきれない部分が出てくる.そこで、それを「誤差」として解釈するためにいくつかの値を定めておく.

@単位要素空間の形成に関して
 掃起面の面積が最大時の面積の一定割合α未満になるまで掃起する.
               >>本研究ではα<10%
A要素空間の形成に関して
 ア)体積相対誤差:dv/v
 ある要素空間の地盤面への正射影図形と隣接する要素空間の地盤面への正射影図形の体積比dv/vが一定の値以下の時、その要素空間は演算の誤差と見なし、隣接する要素空間の内で接面の面積が最大の要素空間と統合する.
             >>本研究ではdv/v<0.03
 イ)角度誤差:θ
 二つ以上の平行な単位要素空間と、それとは角度θをなす単位要素空間との演算では、θがθ=0とみなせる一定の値以下である時、角度近似を行い、全ての単位要素空間を平行な単位要素空間として演算を行う.
           >>本研究ではθ<π/45≒0.07

 ウ)重なり絶対誤差く平面方向、断面方向):∈
 向かい合う壁面が微妙にずれていると、そのズレによって薇少な三角柱、四角柱などが生成する場合がある.そのような場合、それの地盤面への正射影図形の最小へんの長さが一定の値∈以下であるとき、その要素空間は演算の誤差と見なし、娯真になる部分は、最大面積で接する要素空間(複数ある時はその内最大体積のもの)と統合する.
             >>本研究ではε<300mm


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