はじめに
本調査は、岩手県が県北地域の活性化のために現在行っている「久慈地域まちづくり推進事業」の一環とし
て、久慈市を対象として「個性と魅力あるまちづくり」を検討したものである。
久慈市は,美しい海岸と山並み・渓谷に囲まれた恵まれた立地条件を持った都市である。また,市街地
の整備にも積極的に取り組み道路等の基盤整備や各種の公共施設整備も進んでいる。しかしながら,古くから
の町ある八日町・十八日町・二十八日町地区を見ると多くの市民が集まり,憩い,学び,働く場としては魅力
を失いつつある。
こうした町の中心市街地の衰退は、岩手県のみならず多くの市町村が抱えている課題であり、郊外への住宅地
の拡散や大型店舗の進出,さらには公共公益施設の再配置などにより,中心市街地の小売店舗の衰退・消滅や
急激な人口の減少や高齢化が進むなど深刻な問題となっている。
こうした現状を受け,国においても中心市街地活性化関連の施策が検討されているが,いずれにしても各県
や市町村がどのようなまちづくりのビジョンを持つかが鍵である。中心市街地は単に商業地としてではなく,
産業・文化・生活・教育・福祉など様々な面でこれまでの蓄積があるそうした資源を再評価して,独自の魅力
と個性を発揮していくことが求められている。
そこで,本調査では久慈市の特に中心市街地に限定して現状を調査し提案を試みた。当初から岩手県が若手
研究者や学生の新鮮な発想を期待したところから始まっており,網羅的な調査ではなく,あくまでも今後の県
や市,あるいは地元の人々の議論の素材として活用されることを期待したものである。
本調査の主題は以下の二点である。
久慈市の中心市街地が抱える都市計画的課題 中心市街地における具体的なまちづくりの提案
中心市街地が抱える都市計画的課題について整理した後、まず「景観」に焦点を当て、市内にある「景観
形成の要素」を探索している。山並や河川などの自然,気候,町並みや界隈性など魅力を感ずる要素を整理
し, それをうまく活用するという視点で「新しいまちづくり」を提案している。
「景観」は一般の市民にとって馴染み深く取り付き易い考え方なので、今後市民を交えて「まちづくり」を
進めるためには非常に有効であると思われる。さらに具体的なプランとして,中心市街地中でモデル地区とし
て取り上げ提案を行っている。詳細な事業化等のスタディを行ったものではないが,活性化の第1歩として是非
検討していただきたい。
1997年10月29日には久慈市において久慈地方振興局主催で,久慈市役所を始め,関係市町村の担当の方々
などを交え中間報告会を開催した。併せて参加者を交えての「まちづくりワークショップ」も行い多くの意見
が出された。さらに,久慈市における意見交換会や地元商店街や市でのヒアリングやアンケート結果なども
参考にして提案をまとめている。資料編では商店街整備手法の変遷や統計資料,全国のまちづくりの事例紹介
を整理してある。
限られた調査期間で久慈のよさを十分に反映したものとは言えないが,調査に参加した学生達の新鮮な目
でみた結果であり,これをたたき台として,議論をしていただき,県,市そして地元市民が協働でさらに魅力
あるまちづくりの実現に向けた取り組みを期待している。
最後になりましたが、調査の実施に当たって、岩手県久慈地方振興局,同企画振興部地域政策課特定地域
振興室、久慈市役所の関連部局の方々,さらに商店街や市の関係者の多大なご協力をいただいたことを感謝
申し上げます。
平成10年3月
都市デザイン調査会
代表 西村 幸夫(東京大学教授)
副代表 北沢 猛(東京大学助教授)
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